小児〜年配者に渡り、今社会的な問題として課題とされている「聴力」。
ご自身の生活を振り返ると「あれ?昔よりもなんだか音が聴き取りづらいな!」「帰宅するとドッと疲れを感じてしまう気がする」など日常生活から知らず知らずのうちに体から発信されているSOSのサインに気付かない方も多いのが聴覚の衰えとも言われてます。
そこで注目されているのが、聞き取りにおいて全集中する「リスニング・エフォート」。
そして聞き取り全集中が蓄積され感じる疲労感「リスニング・ファティーグ」です。
とはいえ、まだまだ一般的に馴染みの無いジャンルになるので、今回はこれらをテーマにした補聴器ユーザーや聴覚ケアに関心のある一般の方を対象とした双方向型のイベントが大阪にて開催されると聞き、早速イベント当日の様子を取材して参りました。
「リスニング・エフォート」と「リスニング・ファティーグ」とは?
今回の大きなキーワードである「リスニング・エフォート」と「リスニング・ファティーグ」
イベント当日の様子に移る前に、まずはこの2点の理解を深めてみましょう!
リスニング・エフォート
近年、海外を中心に聴覚障害児教育の分野から関心が高まりつつあるリスニング・エフォート(Listening Effort:以下、「LE」)
学校生活を送る子どもたちの外見から捉えづらい疲れ、学習時の負担を把握し、適切にケアするための研究や実践が進んでいます。
「聴覚情報を理解する際、妨害要因を乗り越えるために、意図的に心的リソースを配分すること」と定義するLE。
それはつまり聞き取りが難しい状況において、頑張って聴くために、聴覚経路だけではない様々な認知能力を総動員して話を理解するという行為を示します。
これは年齢問わず、子どもでも大人でも見られ聞き取りが難しい状況において、注意・集中を高めたり、聞き取れなかった内容を推測したり、聴覚以外の認知機能も総動員して話を理解するような行為を意味します。
聴覚障害のある方の場合、たとえ聞き取りの成績が良かったとしても、LEが高い状態にあり、聞き取りだけではなく、様々な活動への影響が生じていると言われています。
またLEには様々な要因が影響を及ぼしますが、大きく分けると①個人の要因、②環境の要因、③モチベーションに整理されます。
本人が「聞きたい」と思う話に対して、つまりモチベーションが高い状態ではエフォートも上がるということです。
これはポジティブな意味でのエフォートと捉えることができます。
LEは必ずしも悪いものではなく、個人あるいは環境からの聞き取りづらさに伴って生じるネガティブな側面と、聞きたいというモチベーションに伴って生じるポジティブな側面があわさった考えであり、本人が置かれた状況や文脈を踏まえた評価・支援を提供していく必要があります。
リスニング・ファティーグ
リスニング・ファティーグ(Listening Fatigue:以下、「LF」)とは、頑張って聞き取りを続けた結果生じる疲労感の事を示します。
ポジティブな側面にせよ、ネガティブな側面にせよ、LEが積み重なるとLFは上昇しバッテリーは減るという点も理解した上で、そのような状況だと話を聞きたいと思ってもそれに割くエネルギーが残っておらず、頭が回らずに聞き取ることを諦めてしまう可能性もあります。
適切なタイミングでエフォートを高め、聞きたい話を聞き取ることができるよう、ペース配分を考えていくことも重要であり、雑音下聴取能力を推定する新たな聴覚検査ACT(アクト)の結果も積極的に活用することで、「余分なリスニング・エフォート」を減らしつつ、本人の意志やモチベーションに応じて、エフォートをコントロールできるように環境を整えていくことが求められています。
子どもは大人よりLEを抱えやすい
聴覚研究の最前線であるデンマーク工科大学の客員研究員を1年間勤め、LEに関する最新の知見を得た茨城大学教育学部の田原 敬(たばる・けい)准教授は、「子どもは大人よりもLEを抱えやすい」と指摘します。
また、聴覚障害のある子どもは、常にLEが高い状況、すなわち「頑張って聴いて理解している」状況にあります。
聞き取りが簡単な状況では、聞いて理解しながら他の認知活動を行う余裕がありますが、聞き取りが困難な状況では、聴覚的理解に集中するあまり他の認知活動を活用する余裕がなくなります。
それによってより深い理解や内容の記憶、マルチタスクへ等への対応ができず、結果として学習や発達に悪影響を与えかねません。
今回のイベントで講演2にて、更に詳しくお話しされていましたので、ここからはイベント当日の様子を合わせてご紹介させていただきます。
「みんなで創るきこえのミライ」イベント当日の様子
2025年6月22日(日)AP大阪駅前 地下 2階 APホールⅡで開催された「みんなで創るきこえのミライ」イベント!
当日は約100名程の参加者が集い、実際に補聴器を使われている方だけでなく医療・介護・教育関係者など、様々な方が集まっていました。
ここからはそんなイベント当日の様子を交えながら、詳しくご紹介させていただきます。
開会の辞
今回の共同主催であるオーティコン補聴器プレジデント齋藤 徹 氏による挨拶。
一部抜粋
日本では、加齢とともに聞こえなくなるのは当たり前と難聴を放置している方が海外に比べて多いというデータが出ています。
昨今、若年層のイヤホン難聴も増えており、若い世代からご高齢の方まで、ご自身やご家族の耳の健康についてもっと意識していただきたいと思っています。
当社は聴覚ケアの啓発活動の一つとして、茨城大学教育学部障害児教育学研究室および岡山大学病院聴覚支援センターとの共同主催で動画「きこえのミライ」を過去2回配信し、その動画を通じで聞こえにくさによって無意識のうちに努力して聞いてしまう現象や、それに伴う疲れをテーマに、デンマークの聴覚研究の最新の情報や日本の取り組みについて分かりやすく解説しています。
嬉しいことに、動画を見ていただいた方々からもっと知りたい、片岡先生や田辺先生に直接質問したいというお声を多数いただき、初のライブイベントを大阪にて共同主催で開催する運びとなりました!
ぜひ本日はご参加の皆様と共に "みんなで作る参加型のイベント” をぜひ楽しんでいただけたらと思います。
本日のイベントが皆様にとって有益なものになることを願いつつ、開会の御挨拶とさせていただきます。
講演1 医療・技術・社会で創るきこえのミライ
講師 片岡祐子(岡山大学病院 聴覚支援センター センター長補佐・岡山大学学術研究院医療開発領域 准教授)
一部抜粋
最初に事前に頂いた質問を拝見し、その中でも多く上がってた内容を中心に本日はお話しできたらと思います。
改めて、補聴器や人工内耳をつけていても、情報を聞こえることに限界がありますが、周りはそのことに気づいていない・・・聞き取りにくさの問題ですね。他にも隣の席の人の低い音の声が響いて辛い、聞こえの不快さのようなもについてのご質問も多く上がっていました。
具体的な例で言うと、中学生が家で補聴器や人工内耳を外してしまうのは疲れのためとか、特定の周波数のうるささによる疲労もリスニング・ファティーグ、聞き取りの疲れなのでしょうか?というような周囲の方からの質問もありました。
こういったよく聞く質問なんですけれども、[(音が)響いて辛い]と[(音が)聞こえにくい]って矛盾しているようにも聞こえますが、様々な ”聞きにくさ” が共存しているのは事実なんです。
今回は〈なぜそんなことが起こるか〉を説明できたらなと思います。
改めて皆さんは[聞き取る]ってどんなことなのか?考えてみましょう!
普段は何も意識せずに聞いていらっしゃる方ほとんどだと思うんですけれども、実は聞き取りにはすごく複雑なプロセスがあるんですね。
例えば、補聴器をしている子が学校の授業中に先生の話を聞いている場合、音が聞こえるっていうことから言葉が理解できるまでを事例に考えてみます。
最初に「先生が何か言ってる!」と、注意を向けます。
それから雑音がある中で先生の言葉を区別が始ります。
そして、「か」や「て」「い」といった必要なワードを雑音の中から聞き取ります。
そして何か文脈とかを通して足りない音を補強してるんですね。「あ!かていか かな?」と聞き取ったワードを頭の中で処理して、「あ、家庭科。これはこういうことを言ってるんだな」っていう、聞き取りの部分と理解の部分っていうのがあるんです。
高齢者の聞こえの難しさどんな場面であるかっていうと、もちろん小さい声だったり、早口、あと距離が離れている後ろの方にいたりする場合だったり、雑音があるマイクの音声とかですね。
いろんなちょっと歪んだような音になってくると余計聞き取りにくくなります。
集まりだったり講演だったり、それから病院で背中を向けられたりするとなかなか聞き取れない。
この聞き取れない状態を放置しているとコミュニケーションもちろん取りにくくなりますし、社会生活にも支障をきたします。
例えば、病院で言われたこともきちんと聞き取れない。
それから危険察知もね、最近は車の走行時に発する音もかなり静かなので、聞き取れなくて危ない思いをしたと言う事例もあります。
また、心理的に自信を失ったり、鬱状態になったり・・・最近は認知症のきっかけになることもありますよっていうのが言われています。
じゃあ、子供ではどうでしょうか?子供でも同じように小さい声だったり距離が離れていたり雑音があったりする聞きにくい。
授業以外にも校外学習や給食がありますね!
ガチャガチャ音が出ているとか、それからグループ学習。
そういったところから子供だと学習で難しい学習能力が低下し、自信がなくなる。
またお友達とのトラブルが起こったり不登校になったりいじめを受けたり、仕事の上での問題が起こってくることもあるので、そういった場面をどうサポートすればいいですか?と実際に教育現場に携わる先生方にも聞かれます。
だからこそ適切な補聴器を付けること、それから先生だけでなく周りの配慮や支援が重要になってきます。
中略
聴取者のご意見の中には7、8年前の補聴器よりも今の補聴器の方がずっとよく聞こえるという意見をよく聞きます。
これは人工知能のおかげです。
AIは体の動き、頭部の動き、注視している方向など、様々な音源の中で音源を分析することで、雑音下での聴取が45%上がり、リスニングエフォートが31%下がったというデータも得られています。
これは事前にオンライン会議で井上さんと話した内容ですが、例えば環境音に合わせて自動で調整する補聴器があれば、これまで手動で選択していた様々なモードを、AIが好みを学習したり、周りのノイズレベルを分析したり、位置情報を察知してモードを推奨するような補聴器が実現できたらいいなと思っています。
ただ一方で、聞き取りには冒頭で申し上げたように限界もあります。
その中で子ども達にとっても学び方、繋がりは多様であればいいなとも思います。
デジタルコンテンツは教育者用、子ども用にもありますが、オンライン相談、ChatGPT、メタバースでの情報、聴取者のコミュニティ形成など、様々なものが活用できるようになっていきます。
そういったものを使いつつ【学ぶ・繋がる】ということが広がっていけばいいと思います。
決して聞き取りだけが全てではないので。
さらに私が思うのは、制度や技術はどんどん進化していると思いますが、それ以上に大切なのは社会を生きる皆さんの意識です。
皆さんのご意見の中に「聴取者と非聴取者で垣根なく理解が深まり、全ての人に豊かな時間が過ごせる社会になって欲しい」という意見もありました。
社会として個々の人の長所を生かす教育、いいところを生かす教育、皆で働き皆で税金を納める社会、障害の有無に関わらず貢献できる社会にしていくことが大事だと思います。
講演2 リスニング・エフォート:きこえを楽しむためのヒント
講師 田原敬 (茨城大学 教育学部 障害児生理学研究室 准教授)
一部抜粋
まず初めに皆さんは普段、体の ”どの箇所” を使って音を聞きますか?・・・大半の方が耳を指していますね!
では次に 体の ”どの箇所” を使って音を理解しますか?・・・こう質問を変えると、本日参加されている皆さんも先ほど耳を示していましたが、耳から頭の方に移りましたね!
聴覚は耳だけでなく脳の様々な機能を使って音を聞いています。
今日はそのことについてお話ししたいと思います。
例えば、雑音の中で聴覚はどうやっているのかを視覚的に置き換えて考えてみましょう。
次のスライドには「関西」という文字がいっぱい書いてあります。
その中に3文字だけ関西と違う文字があるので、見つけてみてください。(スライド提示 参加者へのクイズ)正解は「き」「こ」「え」です。
これは音声を聞く状態と同じです。
駅などでは様々な音がしますが、我々は必要な音だけを聞きます。ですが人間の耳は、入ってきた音一つ一つを分析していたらパンクしてしまいます。
必要なものに集中し、不要なものを排除する機能、これを選択的注意と言います。
これは脳が勝手にやってくれる機能で、人間の脳は本当によく出来ていますよね!
更に音声を聞く時はこういう機能が働いています。
また、今回のスライドには文字が重なっていたので ”正確な文字じゃない状態” でしたね!その中でも「き」「こ」「え」と分かるのは、それらの文字を元々知っているからです。
重なっていたりくっついていても、違うと脳が判断して切り離してくれます。
「き」「こ」というヒントを見た時に、「今日聴覚の未来だから最後は「え」なのかな」と推測された方もいるかもしれませんね!
これも脳が勝手にやってくれる機能です。
我々は無意識のうちに様々な機能を使って音を聞いています。
これをAI、ChatGPTにやってもらうと、「き」「そ」「て」と間違えました。
この分野はゲシュタルト心理学と言いますが、まだ人間のほうが優れている分野です。
しかし難聴、聴覚障害がある状態だと入ってくる情報が不鮮明になります。
聞きづらい状況で頭をフル回転させながら、頑張って話の内容を聞き取ることをリスニングエフォートと言い、聴取努力、聞き取り努力とも訳されます。
私たちは意図的にカタカナで「リスニング・エフォート」という言葉を使っています。
日本の方には分かりづらい言葉かもしれませんが、その理由は後で説明しますね。
リスニング・エフォートの問題点を小学校に通うお子さんを例に考えてみましょう!
朝起きて、家族と話をして、学校で授業を受けると、頑張って先生の話を聞きますよね。
しかし、リスニング・エフォートは時間帯によって変化します。
12時頃は難しい授業があり、リスニング・エフォートは上がります。
14時頃にはガクッと下がることがあります。
これはなぜでしょうか?もう一つの考え方として「リスニング・ファティーグ」があります。
これは片岡先生のスライドにもありましたが、ずっと頑張り続けると疲れるのは当たり前です。
この方の場合は14時頃にリスニング・エフォートが下がり、頑張ろうと思っても、もう頑張る力がない状態です。
似たような考え方で「バッテリー」もあります。
朝は100%フル充電ですが、疲れてバッテリーが減っていきますよね。
改めて疲れてくると、色々なことが難しくなります。
難しくなると聞き取りの困難さが増え、悪循環が起こりますが、この悪循環が続くと「面倒くさい、したくない」と思ってしまうようになります。
これが日常の生活に影響を及ぼすことが危惧されています。
もう一つの問題として、あまり知られていませんが、エフォートが高い状態が続くと理解の深さに影響が出ます。
私たちの頭の容量を四角形だとしましょう。聞き取りに半分を使っても、半分は余っています。色々なことを考えられます。
しかし、聞き取りが難しいと、聞き取りに多くの容量を使い、空き容量が少なくなります。
言われたことを覚えたり、深く理解することができなくなります。
ここまでネガティブな話ばかりでしたが、考え方を改めたいと思います。
こちらがリスニング・エフォートに影響を及ぼす要因をまとめた図です。
聞き取りづらさや騒がしい環境など、聞くのが難しくなるとエフォートが増えるのは想像できます。
一方で、簡単な条件でも一生懸命聞きたいという思いがあれば、エフォートは変わります。
例えば、学生達にとってエフォートが最も上がる魔法の言葉は「ここテストに出すからね」です。
この一言で、無言だった学生がスイッチを入れます。
内容は変わらないはずなのに、聞かなければいけないと思うからこそ、リスニング・エフォートが上がります。
エフォートが高いということは、その話を聞きたいと思っていることだと思います。
「聴取努力」や「労力」という言葉にはネガティブなイメージがありますが、カタカナの「リスニング・エフォート」を使うことで、ポジティブに捉えてもらいたいという背景があります。
リスニング・エフォートやファティーグが高まらないようにする考え方が良いのか、改めて考えるべきだと私は思います。
例えエフォートが高くても、自分の人生や生活に影響が出ないよう エフォートや疲れが出ても、満足感を得られたという考え方が重要です。
私も先日、勉強でデンマーク旅行で疲れたましたが、後悔はしていません(笑)
それはなぜかと言うと ”満足感” があったからです。
疲れ・頑張り・得られたもの そのバランスを考え、一人一人が自身の意志や価値を持って判断することが求められています。
エフォートを扱っていく上では、障害のある方自身も、しっかりそこに向き合って、自分でコントロールしていくことも大事ですし、それを専門家が伴走するような形で支えることも重要だと思います。
みんなで支え合いながら、楽しいリスニングライフを作っていければと思っています。
講演3 リスニング・エフォート体験談
講師 井上晶雄 氏(補聴器装用者・会社員)
一部抜粋
私は聴覚過敏難聴で幼少期頃から補聴器を使っています。ですが、普通の学校に行き、その後 様々な経歴を経て、今は大手企業で勤務しております。
そんな僕が長年思っていた疑問は[なんで聞こえているのに体は疲れているんだろう?]ということでした。
そして周りの方に[この疑問をどうやって伝えればいいのか]を当事者のリアルな体験談として本日はお話ししたいと思っています。
リスニング・エフォートは、僕の感覚だと普通の方よりは通常の長時間の認知的負荷がかかっている状態です。
常に音を聞き取ろうとして集中し、聞き取れない部分を脳内で補完しようとする動きがあります。
または、視覚情報、口の動きや身振り手振り、表情なども推測しようとして総動員しているので、脳が常にフル稼働し続けているのがリスニング・エフォートだと思います。
今はこうして自分の状態を伝えられましたが、最初は言えませんでした。
理由は大きく4つあります。
【周りの方に迷惑をかけてしまうんじゃないか】という気持ち
【説明しても理解してもらえないんじゃないか】という不安
【説明しなくても自分が頑張れば何とかなる!】という努力で解決しようという想い
そして・・・当時は僕と同じ悩みを持つ人は多くはないと思っていので【自分だけが特別な扱いを受けてしまう】という心理的負担がありました。
ただ、黙っていること、言えないことによる代償は何なのかを考えてみました。
例えば、日常的な疲労の蓄積、体が疲れてしまい、仕事のパフォーマンスに影響があること。
更に人間関係への影響、積極的に交流できない気持ち、結果として社会参加が難しいという点です。
これらはあまり相互にとって良くないと思っています。
自分にとっても、向こうにとってもいい仕事はできないのは社会にとって良くないという漠然とした感じもあるのですが、お互い良くないので、頑張って少しずつ伝えていこうという気持ちが少しずつ出てきました。
そこで、具体的にどういうことをお願いしているのかという内容ですが、これはもちろん人によって違うのですが、僕は左耳よりも右耳の方が聞き取りやすいので、3人座っている席があったら、一番左側の席で右耳を使って聞きます。
集まる時には、「右の方が聞き取りやすいからココに座らせてもらえないか?」と頼んでいました。
後は話し方のお願いです。
例えば、「会議」という言葉が聞き取れなかった時には、何回も「会議、会議」と繰り返してもらうんじゃなくて、「打ち合わせ」と言い換えてもらうと聞きやすいので、そういう言い換えについてもお願いしていました。
後は発声についての理解です。
よく誤解されがちなのが、難聴や聞こえにくいことが音の大きさの問題だと誤解されがちですが、そうではなくて、発声の明瞭さの問題であることを説明しています。
音が大きくても、ぼやけた状態では聞き取れないので、できるだけはっきりしゃべってもらうというところが聞き取りのポイントだとお願いしていました。
ここまでが、周りの方にお願いしていたリスニング・エフォートに対するお願いです。
自分の方で申し上げていた環境について、自分がどうやって環境を調整するのかというところです。
集中して作業したい時には、みんなと一緒の場所だとみんなが雑談をしていたり、環境の音があると集中できないので、自分だけ違う部屋に行って作業するということも、許される環境であれば利用します。
また重要な会議や講演会では一番前の方に座りたいと申し出て環境を整えていくことも有効だと思います。
他には、ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンやヘッドホンを使うことです。
わざわざ別の会議室に行くのが難しい場合には、それを使って音をシャットダウンし、自分に必要のない情報を入れなくするために使います。
最後に、疲れた時はちゃんと休憩をとることも大事だと思います。
こういった自分にとって最適な環境は人それぞれ違うと思いますが、自分の特性を理解した上で環境を自分から変えていくことが大事だと思います。
繰り返しになりますが、リスニング・エフォートは当事者は分かるけど周りの方は分からないので、厳しい立場になってしまうのですが、自分からアクションをとることが非常に重要だと思います。
体験会 リスニング・エフォートを体験してみよう!
講演後は、リスニング・エフォートについてより深く理解が出来るよう、全員参加型の体験会も実施されました。
普段は個別で静かな環境で検査を行いますが、今回は約100名近くの方が参加されたイベントに合わせ、会場のスピーカーから音を聞いてもらいながら、リスニング・エフォートの測定体験を行いました。
まず、A・B 二つの条件のどちらかを選びます。
Aは雑音の中で聞こえる音声を聞き取り、自身で復唱します。Bは簡単な計算問題を解きながら、Aと同じく雑音の中で聞こえる音声を復唱します。
私は今回、Bの条件で参加しました。
リスニング・エフォートは先程の講演会を通じて理解を深めましたが、実際に小学校1年生レベルの足し算・引き算を回答しながら、雑音の中の音声を正確に聞き取り復唱するのはすごく頭をフル回転させた印象でした!
1〜2分程度の体験ですが、自身で感じた[頑張り度]や[復唱の正確度]を記録していくと面白い結果が出ました。
雑音のレベルが変わると[復唱の正確度]は変わらないのに[計算できた数(頑張り度)]は雑音のレベルが大きいほど少なくなりました。
雑音レベルが大きく[計算できた数(頑張り度)]少ない結果=聞き取りにエネルギーを注いだエフォートの量ということが、自身で体験してより身近に感じました!
質問会
質問会では今回の参加者からの質問を講演者が回答され、より深い理解へ繋がりました。
今回はその一部をご紹介させて頂きます。
ー 井上様にご質問です。社会人として働く環境において、疲れを少しでも軽減して勤務時間を終えるための何か工夫はありますか?
井上
僕の場合は会社に昼寝をするための部屋がありまして、ミーティングとかがなければ、例えば食べた後とかはどうしても眠くなってしまうので、時間が許す限り睡眠をとって休める時間を取られてもらってます。
パフォーマンスよく仕事を終えることができる一方で、日本の社会や学校だと、一人抜けて休みを取るっていうのが、ちょっと雰囲気的にやりづらいところがあるかなと思います。
ですが、空き教室とかを活用してぜひ積極的で休んでほしいな、と思っています。
現実的にある話で、お子さんのなかでは「休んだら?」と提案しても、「まだ先生の授業を聞きたい!!」と、いわゆるエフォートが高い状態を望んでるケースもありますので、そこは話し合いながら、休めるような環境っていうのを作って行けるように、私もちょっと頑張って行きたいと思っています。
ー 井上様にご質問です。周りの方に配慮を求められるようになったきっかけを教えてください
井上
最初は「自分が思ってる以上に周りの人がリスニング・エフォートなどを知らないんだな」ってのがあったので、ちゃんと伝えると「なるほど!そういう状況だったんだね」って理解してもらえたことが、多分きっかけだったのかなと思っています。
先ほども話したんですけど、自分から伝えて行かないと、自分のこと察してくれたりとか、考えてくれたりとかはしないので、分からないが故に、なので自分から「こういった状況なんだ」っていうことを、少しずつ知ってもらうようにするっていうのが、きっかけだったなと思っています。
自分から言うっていうのは勇気がいったりとか、結構ハードルが高かったりするかなと思ったりするんで、大々的にみんなに知ってもらうというのではなくて、僕の場合は最初に上司だったり、同僚の数人だけとか、少しずつ一人一人ずつ、個別に話してその味方を作り上げていくという方法にしました!
ー 補聴器に関するご質問です。軽中度難聴のお子さんの親御さんが相談したが、「難聴がそんなに重くないから、この子には必要ない」と言われてしまうるケースや 「授業が難しくなって来る高学年になってからそういうのは使ったらいいよ」と言われることがあるそうです。就園、就学前のお子さんの聴覚のフォローのために、統一ガイドライン策定の動きなどはありますか?
田原
実際に私もよく耳にする話ですし、恥ずかしながら私自身もリスニングエフォートを知るまでは同じようなことを思っていたかもしれません。
ただ、この問題は聞こえればいいという前提が皆さんにあるところが問題です。
今日話したように、聞こえていても本当に大変だということを理解していただければ、様々なサポートを使うことに繋がると思います。
そのためには、【きこえのミライ】といった講演等を通して啓発活動をしています。理解が広がるよう頑張っていきたいと思っています。
片岡
普通の補聴器システムに関しては、自治体によって補助が出たりする補聴器がありますが、補助が出る所と取れない所があります。
例えば雑音下聴力検査の結果を添えたり、医療者が診断書に必要性をしっかり書いて自治体に訴えることで何か変わってくるかもしれません。
閉会の辞
イベントの最後には3名の講師の方々がそれぞれより、イベント参加者や今後掲載されるYouTubeを視聴される方へ、感謝のメッセージが贈られました。
一部抜粋
たくさんの皆さんにご参加いただいて、私たちも本当に色んな意見をいただいてありがたかったですし、予想よりも倍近くいらっしゃったということで本当に嬉しく思っています。
このイベントは、今後の日本の聴こえの未来を考えていく上で、すごく大事なトピックが入ったイベントだと私は考えています。
私たちもこれからもっとこの考え方を広げていきたいと思っていますので、是非皆さんもご協力いただければと思います。
イベント会場の後方では、今回共同主催のオーティコン補聴器のブースもありました!
従来のイメージを大きく変えるファッショナブルなデザインに私も驚きました!
一見すると誰もがよく使うワイヤレスイヤホンと変わらず、年齢に応じたカラーバリエーションも豊富に展開されていることから、私たちがこれまで知らず知らずに抱いていた補聴器というネガティブイメージを払拭し、カジュアルに、そして自身の生活をより暮らしやすく豊かに過ごしていただたきたいというオーティコン補聴器メーカーの想いが伝わってきました!
機能面についても、もちろん大幅に進化を遂げ[利用者のしたいことを感知して必要な音を届ける ”じぶんセンサー”]を搭載し、今回の講演時にお話しされていた、雑音から蓄積されがちな疲れを軽減するノイズキャンセル機能はもちろん、利用者が直感的・且つストレスフリーにデジタルコミュニケーションが取れる機能など、まさに次世代をゆく補聴器!
イベント参加者も実際にスタッフの方に魅力などを質問することで、より理解を深められる機会に繋がりました。
また、イベント会場の隣では、聴力スクリーニングも体験できました。
視力とは違い、聴力の衰えは自身でなかなか気付きにくいところですが、日常的に検査する機会が少ないので、私も実際に試してみることに!
検査方法は従来と同じく、片耳ずつ 低音〜高音が聞こえたタイミングでボタンを押すシステムですが、従来の大きな検査機材は必要なく専門のヘッドホンとタブレットのみで検査ができるので、会社など小さなスペースでも場所を取らず、気軽に検査ができます。
まとめ
いかがでしたか?
日常生活ではついついほっときがちな聴力について、今回のイベントでは補聴器ユーザーや聴覚ケアに関心のある一般の方を対象とした双方向型のイベントとして開催されました!
私自身も実際に体験し、普段なら全く気にしなかった聴覚が与える影響など、測定体験・講演を通じでより深く理解できました!
気になる方はぜひ、オンデマンド動画配信プログラム「きこえのミライ」シリーズと合わせてご覧いただければと思います。
オンデマンド動画配信プログラム「きこえのミライ」シリーズ
2023年オンデマント動画配信プログラム「きこえのミライ シーズン1」
https://www.youtube.com/playlist?list=PLKB6L7jIfYfWbUXK3NNE3MlsyudEWiuzr
2024年オンデマンド動画配信プログラム「きこえのミライ シーズン2」
https://www.youtube.com/playlist?list=PLKB6L7jIfYfVpZetF7HZudKbGCWBAnxaT