世界的に見ると、日本って貧困とは無縁の国のように思えますよね。
でも実は、国内の15.4%、つまり6人に1人が「相対的貧困」に直面しているというのが日本の現状なんです(2018年厚労省データ)。
「相対的貧困」とは、その国の文化水準・生活水準と比較して困窮した状態にあることをいいます。
「1日1.9ドル(約200円)以下で生活する層」と明確に定義された「絶対的貧困」と違って、「相対的貧困」は地域や状況によって水準が変動します。
そのため深刻な問題であっても顕在化されにくくなる場合が多々あるそう。
貧困について顕在化されにくい問題でいうと、ホームレス問題もそうですよね。
2021年1月時点で、日本のホームレス状態にある方の数は約4000人だとされています(厚労省)。
2003年の統計数2万5000人と比べると大幅に減少しているのですが、そこにはネットカフェ難民と呼ばれる人や、知人宅などを転々とする不安定居住層は含まれていません。
つまり、ホームレス状態であるにも関わらず、そうした人たちの数は可視化しにくいため公の統計に反映されていないのです。
そんな状況に対して、「知ったからには知ったなりの責任がある。」と、正面から向き合って問題解決に当たっているのが特定非営利活動法人Homedoorです。
2010年創立時より、「ホームレス状態を生み出さない日本」を目指し、ホームレス状態の人や生活困窮状態にある人を対象に、仕事や宿泊施設の提供、相談事業などを行っています。
そして今年6月、さらに充実した活動を進めるために開業したのが “食×就労体験×交流”をテーマにした「おかえりキッチン」です。
今までにない新しいコミュニティデザインを提案する場所でもあるということで、どんなことをしているのかさっそく伺ってきました!
食×就労×地域交流をテーマにしたカフェ
大阪メトロ「天神橋筋六丁目駅」11番出口の階段を昇り、14号線を道なりに北へ。
「天神橋7」の交差点まで来たら左折して(ファミリーマートのある角)、ひとつ目の十字路を越えます。
少し歩いて黒と白のストライプ柄のオーニングテントが見えてきたら、そこが「おかえりキッチン」です。
キッチンを囲んだカウンターテーブルでホッと一息
木を多用して、ナチュラルな雰囲気にまとめられた店内。
ほわんと優しい暖色の明かりが空間全体を包んでいます。
中心にあるのはオープンキッチン。その周りをカウンターテーブルで囲み、スタッフさんとお客さんが気兼ねなく談話できるようになっています。
広報・谷野さん「カフェの隣には、ホームレス状態になった方のための個室型宿泊施設『アンドセンター』があります。そこに無料で宿泊していただきながら、『おかえりキッチン』で就労体験の機会を提供していく予定です。また、地域の方にもたくさんお越しいただけるようにしていこうと思っています。『ホームレス』というと、『働けるのに働かないからそうなったのでは?』、『本人の努力次第でなんとかなるのでは?』といった自己責任論的な指摘や批判がどうしても出てきてしまうのですが、ここへ相談に来られる方の大半は『働きたくても携帯などがなく働けない』ということおっしゃいます。一般的なイメージと事実は違うんですよね。誰しも、ホームレスになりたくてなったわけではなくて、そうならざるを得ない状況になってしまった…というのが実際なんです。そうしたことについて、気負い過ぎることなく、地域の方々が自然に理解を深めていただけるようなカフェにしていきたいと思っています。それから、ホームレス問題だけでなく、地域活性化につながるコミュニティとしてこの場所を活用していただくことも考えています。」
ホームレス支援と地域活性化を同時に行える場所が「おかえりキッチン」なんですね。
近隣にあまりカフェがないということからも、今後さまざまな方のニーズを満たしながら、この地域ならではの新しいコミュニティとして展開していきそうです。
Homedoorとおかえりキッチンの誕生背景
「おかえりキッチン」の運営母体となるHomedoorの設立のきっかけは、当時14歳だった代表川口加奈さんが「あいりん地区(通称・釜ヶ崎)」で行われた炊き出しに参加したことに遡ります。
その時に初めてホームレスの人と接した川口さんは、自分の中にあった先入観に気づかされたといいます。
仕事に支障のある怪我をしたにも関わらず頼れる先がなく、路上で生活しなければならなくなった人。
精神疾患のため長く働けず、金銭が尽きてホームレス状態になってしまった人。
派遣先で急な契約打ち切りに遭い、仕事と住居を一気に失ってしまった人。
そんな人たちのことを、誰が「それは自己責任だ」といって責めることができるだろうか…。
その後川口さんは、大阪市内で年間200人以上の人が路上で凍死や餓死のために亡くなったという報告や、理不尽な路上襲撃事件のニュースなどを聞くたび、強く胸を痛めるようになっていきました。
“ゆっくり自分の時間を持てる部屋と、心身ともに英気を養える食事と、やりがいを持って働ける仕事がある場所。そんな場所をつくることができれば、路上で亡くなる命を守れるんじゃないか。”
そんな川口さんの想いを実現するべく、2010年に設立されたのがHomedoorでした。
そして10年後、法人設立当初から川口さんが思い描いていた、心身ともに英気を養える食事を提供する場所として、「おかえりキッチン」が誕生したのです。
また、「おかえりキッチン」について川口さんの想いの詰まった文がHPにあったので、下記抜粋します。
“ホームレスの人の中に、炊き出しでのお弁当やゴミを漁って見つけた食事のことを「メシ」と言う人がいました。それは、その人にとって栄養を取るためだけの食事にすぎないからです。しかし、Homedoorでこれまで定期的に開催してきたイベントで、皆で食事を取ると「みんなで食べるゴハンはおいしいね。」とおっしゃられたのです。
路上で厳しい生活を送られる方々に、「メシ」ではなく「ゴハン」と感じてもらえる場を、より拡充していきたいと考えています。特にご相談に来られたばかりの方にも、まずは健康的で温かい「ゴハン」を食べてもらいたいと思っています。「ここはどんなところだろう。」「自分はどうなってしまうんだろう。」不安を抱えて恐る恐る相談に来られる方。何日も水だけで過ごし、やっとの思いでご相談に来られた方。そんな方々に、まずはおなかいっぱいにゴハンを食べてもらう。その上で、これからどうされたいのか、次のステップに向けた話をしていきたいと思っています。“
アツアツのホットサンドで体も心もホクホク
画像は「きのこたっぷりチーズホットサンド」。
10~18時(ラストオーダー17時)の営業時間内なら、いつでもオーダーすることができます。
プレス模様が花柄になっていてキュート。
たっぷりサンドしたチーズが、とろけて中からあふれてきそう。
キノコの旨味が効いているので、味付けはしょう油ベースでシンプルにしてあります。
栄養バランスを考え、野菜も多めに添えてくれているところがうれしい^^
ランチタイムは11:30~14:30。
メイン・デリ2種・サラダ・ライス・汁物がセットになった「おかえりキッチンプレート」や、お手製トマトカレーなども用意してくれています。
年々増える相談者数
Homedoorへの相談件数は、年々増加の傾向にあるそう。
特に2020年度の相談者数は前年度比約1.5倍と急増。
コロナ禍の影響が色濃く反映されています。
谷野さん「相談者数は増えましたが、相談内容について大きく変わったという印象はないですね。本質的な問題は以前と同じです。今まで相談一歩手前にあった人が、コロナ禍の影響で失業してしまったり、そのため社宅を出なければならなくなったり。そういったことで相談件数が増えたのだと思います。大阪以外から来られる方もおられました。中には和歌山からここまで歩いて来られた方も。」
若年化傾向にある相談者
相談者の年齢層は20~80代とさまざま。
特徴のひとつは、相談者に若年層が増えていることだと谷野さんはいいます。
谷野さん「ひとりひとり複雑で多様な問題を抱えておられるので、一概に理由を断定することはできないんですが、Homedoorの相談者の方は若年化しています。ネットで調べて来られる方が多いですね。」
厚労省のデータでは、ホームレスの人の平均年齢は61.5歳とされています(2017年データ)。
そのうち65歳以上が全体の4割を占めていることもあり、どちらかというと高齢化していることが話題になりやすいのですが、実際は若年化している?のでしょうか。
もしかしたら、冒頭に挙げたネットカフェ難民などを背景に、若年層に広がるホームレス問題は見えにくくなっているのかもしれません。
Homedoorのメンバー&サポーター
Homedoorでは、現在約1500人がボランティアとして登録しています。
「ホームレス問題に関心がある」「大阪の街を良くしていきたい」「非営利組織についての知見を広げていきたい」など動機はさまざま。
現在も随時募集しているとのことなので、興味がある方は、詳しいことがホームページに書いてあります◎
また、こうしたHomedoorの活動を継続していくためには、やはり運営資金が必要になります。
Homedoorの活動を応援したい!という方は、月1000円(1日約30円)からサポーター(寄付会員)になる方法もあります。
こちらも詳細はホームページをチェックしてみてください。
「見ないものは見えない」という言葉がありますが、ホームレス問題の場合は、「見ない」というか知ってるんだけどあえて「見ないふり」をして、なんとなくボヤっと「見えない」ようにしている…というところがある気がします。
なぜなら、ホームレス状態になるということは、十分どの人の身にも起こり得ることであって、それを直視するということはひとつの恐怖でもあるからです。
人は恐怖を感じるものについて本能的に避けようとします。
ただ、知らないでいること・見ないでいることの方が、後々何十倍も危険になる場合も…って、こういうことをひとりで考えるとしんどくなりますよね。
そんな時、おいしいゴハンを食べながら、スタッフさんやお客さんと一緒に「こんなこと思ってる、あんなふうに感じてる」と肩の力を抜いて話せる場所が「おかえりキッチン」のひとつの役割なんだと思います。
谷野さんをはじめ、素敵なスタッフさんに会いに行くだけでもホッとくつろげますよ^^